
営業やマーケティングにおいて、新規顧客開拓やリード・商談の創出は、継続的に取り組むべき重要な課題のひとつです。特にBtoB領域では、見込み客との商談時に発生する「懸念や不安(オブジェクション)」への対応が、多くの営業担当者にとって大きな課題となっています。こうしたオブジェクションは、新規顧客獲得の障壁となり、せっかくの商談機会を逃す要因になりかねません。
本記事では、現場で使える切り返しトーク15選を紹介するとともに、営業DXを支えるSaaSツールの活用によって、組織全体の営業力と対応力を高める方法をわかりやすく解説します。
なぜオブジェクションへの対応がビジネス成長の鍵なのか?
商談でのオブジェクションに的確に対応することは、単に1つの案件を獲得するという短期的な成果以上に、事業全体の成長を左右する重要な要素です。オブジェクションは、顧客が製品やサービス、つまり「商材」に対して何らかの懸念や疑問を抱いているサインであり、顧客の真のニーズや優先順位を深く理解する絶好の機会でもあります。顧客の不安に真摯に向き合い、適切な情報を提供することで、信頼関係を築くことができます。その結果、商談獲得率や受注率の向上、営業活動全体の効率化にも直結します。
さらに、ABM戦略(アカウントベースドマーケティング)においては、ターゲットと定めた企業内の複数のステークホルダーと対話し、それぞれの立場からの異なる意見に対応する必要があります。この複雑なコミュニケーションを乗り越えてこそ、大型案件の獲得やLTV(顧客生涯価値)の最大化が期待できるのです。近年では、ABMツールを活用する企業も増えてきました。営業DXが叫ばれる昨今、テクノロジーを活用しつつも、顧客に寄り添う力や高度なコミュニケーション能力こそが、持続的なビジネス成長を支える重要な要素と言えるでしょう。また、インサイドセールス部門が初期の段階で懸念や不安の芽を摘んでおくことも、フィールドセールスの営業効率を高める上で重要です。
商談で頻出する懸念 5つのパターン
効果的な対策を講じるためには、まず相手を知ることから始める必要があります。商談シーンでよく聞かれるオブジェクションは、いくつかのパターンに分類できます。ここでは代表的な5つのパターンをご紹介します。
- 価格・予算:「想定よりも高いですね」「もう少し安くなりませんか」「今年度の予算はもう…」といった、費用対効果や投資余力に関するストレートな意見です。
- 必要性・価値:「現状のやり方で特に困っていません」「その機能は本当に必要でしょうか」「この商材を導入して効果が出るか疑問です」など、製品やサービスそのものの価値や、自社にとっての必要性に対する疑問が呈されます。
- タイミング:「今は他のプロジェクトで忙しいので」「来期の検討項目に入れます」「すぐに導入するのは難しい」といった、導入時期に関するものです。
- 競合比較:「A社の方が安い(機能が良い)と聞いています」「B社と比較して、御社の強みは何ですか」のように、他社製品と比較した上での優位性や差別化ポイントを問われます。
- 導入・運用:「導入プロセスが複雑そう」「うちの社員が使いこなせるか心配」「サポート体制はどうなっていますか」など、導入後の定着や運用負荷に対する懸念が示されます。
これらのオブジェクションの背景には、顧客自身が抱える課題や、まだ満たされていないニーズ、さらには既存顧客からの評判や過去の経験といった要素が影響していることも少なくありません。表面的な言葉だけに捉われず、その真意を汲み取ることが重要です。

【タイプ別】切り返しトーク15選
それでは、具体的なオブジェクションに対して、どのように切り返していけばよいのでしょうか。ここでは、前述した5つのパターン別に、実践的な切り返しトークをご紹介します。重要なのは、まずは相手の意見を受け止め(傾聴・共感)、その上で適切な質問や情報提供を通じて懸念を解消していく姿勢です。
価格・予算編
- 価値訴求への転換: 「価格についてご意見ありがとうございます。ご期待に沿える価格か改めて検討させていただくためにも、もしよろしければ、弊社サービス(商材)が〇〇様(企業名)のどのような課題を解決し、どのような価値を提供することができるか、改めてご説明してもよろしいでしょうか?」
- 選択肢の提示と段階的投資の提案: 「初期投資を抑えたいというお気持ち、よくわかります。例えば、まずは必要最小限の機能からスタートできるプランや、月額費用を抑えた年間契約などもご用意がございますが、いかがでしょうか。」
- ROIの明確化: 「確かに初期投資は必要となりますが、導入企業様の平均的な実績として、〇〇の業務効率化により、約△ヶ月で投資回収が見込めるケースが多くございます。具体的な試算をご覧いただけますでしょうか。」
必要性・価値編
- 課題の再認識と未来視点の共有: 「現状で特に大きな課題は感じておられないとのこと、安定したご状況で素晴らしいですね。今後さらにその状態を維持・発展させていく上で、例えば3年後・5年後に想定される業界の変化や新たなニーズについて、何か意識されている点はありますか?」
- 具体的な導入事例(成功事例)の提示: 「〇〇様と同様の業界・規模の企業様で、当初は必要性について半信半疑でいらっしゃいましたが、導入後には『△△という課題が解決し、□□%の業務改善に繋がった』というお声をいただいております。具体的な成功事例をご紹介してもよろしいでしょうか。」
- 限定的なトライアルやPoC(概念実証)の提案: 「効果にご懸念があるとのこと、ごもっともです。もしよろしければ、まずは限定的な範囲で実際にサービスをお試しいただき、その効果を実感していただくためのトライアル期間を設けることは可能でしょうか。」
タイミング編
- 先延ばしのリスク・機会損失の示唆: 「お忙しい状況、重々承知いたしました。ご負担にならない範囲で構いませんが、この分野での対応が仮に後手に回った場合、御社としてどのような影響が想定されるか、少しだけお考えをお聞かせいただけますか?一方で、早期に取り組まれた企業様の中には、競争優位を築かれている事例もございます。」
- 継続的な情報提供の打診: 「現時点ではタイミングではないとのこと、承知いたしました。今後、〇〇様のお役に立てそうな新しい情報や業界トレンド、活用事例などが出てまいりましたら、弊社のwebサイトの限定コンテンツやメールマガジンなどで定期的に情報提供させていただいてもよろしいでしょうか。」
- 短期的なメリットや限定オファーの提示: 「実は今月中にご検討いただける場合、通常は有償の〇〇サポートを無償でご提供できるキャンペーンをご案内しています。ご都合が合えば、この機会にご活用いただくのもひとつかと思います。」
競合比較編
- 自社の強みと提供価値の再強調: 「A社様も素晴らしい製品をお持ちですよね。その上で、弊社のサービス(商材)は特に〇〇という点において、お客様の△△という課題解決に大きく貢献できるとご評価いただいております。」
- 顧客視点での比較軸の提示: 「価格や機能といった比較ももちろん大切ですが、〇〇様が現在お困りの課題や、実現したい目標に照らし合わせた場合、弊社の□□という特徴が特にお役に立てるのではと考えております。ご意見をお聞かせいただけますか?」
- 客観的な評価や実績の提示(可能な場合): 「第三者機関による調査では、弊社のサービスは〇〇分野において顧客満足度No.1という評価をいただいております。また、業界トップクラスの企業様にも多数導入いただいている実績がございます。」
導入・運用編
- 手厚いサポート体制の説明: 「導入や運用に関してご不安な点があるのは、ごもっともかと思います。弊社では、導入初期の支援から操作トレーニング、定期的なフォローアップまで、専任のカスタマーサクセス担当が継続的にサポートさせていただきますのでご安心ください。」
- 簡単な操作性のデモンストレーション: 「操作性のイメージをより具体的にお持ちいただくために、実際の画面をご覧いただきながら、直感的に使える点をご紹介できればと思います。もしよろしければ、5分ほどお時間をいただけますでしょうか。」
- 段階的な導入ステップやスモールスタートの提案: 「全社一斉導入にご不安がおありでしたら、まずは特定の部門やプロジェクト単位で導入し、効果を検証しながら段階的に展開していく進め方もご検討いただけます。導入方法はご要望に応じて柔軟にご相談させていただければと思います。」
これらの切り返しはあくまで一例です。重要なのは、顧客の言葉の背景にある真の意図を理解し、誠実かつ柔軟に対応することです。

オブジェクション対応力を組織で強化するSaaS活用術
オブジェクションへの対応力を組織全体で高め、営業活動の効率化(営業DX)を推進していくためには、SaaSツールの活用が非常に有効です。
SFA(営業支援システム)やCRM(顧客関係管理システム)には、商談の記録の他、どのような意見が出され、どのような切り返しが有効だったかといった貴重な顧客情報を蓄積・共有する機能があります。これにより、成功事例や失敗事例から学び、組織全体の営業ノウハウとして定着させることができます。また、特定のオブジェクションに対して回答を準備し、トークスクリプトとしてSFA・CRM内に格納しておくことで、経験の浅い営業担当でも一定レベル以上の対応が可能になり、顧客情報の一元管理も実現します。
インサイドセールス(BDR)とフィールドセールスの連携強化も鍵となります。インサイドセールスが得た初期のヒアリング情報や見込み客の潜在的なニーズ、懸念事項(インテントデータなどを含む)を、フィールドセールス担当者とスムーズに連携することで、商談の場で想定されるオブジェクションに対して先回りした準備ができます。この情報連携のハブとしてもSaaSツールは活躍し、リード獲得から商談獲得へのパイプラインを強化します。マーケティング部門と営業部門がこうした顧客情報を共有し、連携することで、より効果的なマーケティング活動やABM戦略を展開できます。
さらに、営業支援に特化したSaaSツールの中には、効果的なトークスクリプトの作成支援、ロールプレイング研修のプラットフォーム提供、FAQコンテンツの整備・共有といった機能を備えたものもあります。MA(マーケティングオートメーション)ツールと連携させることで、顧客の行動履歴に基づいた適切な情報提供するタイミングを計り、よりパーソナライズされたコミュニケーションを実現することも可能です。これらを活用することで、営業担当の育成を効率化し、営業活動全体の標準化と質の向上を図ることが可能です。これこそが、真の営業DXの姿と言えるでしょう。
まとめ
商談におけるオブジェクションは、決してネガティブなものとして捉える必要はありません。むしろ、それは見込み客が真剣に商材を検討している証であり、より深いコミュニケーションを通じて信頼関係を構築し、顧客の課題解決に貢献できるチャンスです。本記事でご紹介した15の切り返しトークや、SaaSツールを活用した組織的な対応力強化のヒントが、皆さまの新規顧客開拓、営業効率向上、そしてBtoBビジネスにおけるマーケティング戦略の一助となれば幸いです。
貴社の営業課題やマーケティング戦略に合わせた具体的なSaaSソリューションの活用法について、詳しくご説明させていただきます。BtoBビジネスの成長を加速させるための次の一手について、ぜひお気軽にご相談ください。
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