
昨今、新規顧客の開拓では、従来の画一的なインバウンド施策や、広くアプローチするアウトバウンド手法では、十分な成果を上げにくくなっています。リソースをかけても質の高いリードを獲得しづらく、商談につながらないという課題が顕在化する中、持続的な成長を実現する鍵としてABM(アカウントベースドマーケティング)戦略に注目が集まっています。
なぜ今、ABM戦略がBtoBビジネスの成否を分けるのか
従来の手法に限界を感じている企業が増える中で、あらためて見直されているのが「誰に対して、どのように価値を届けるか」というアプローチの精度です。
市場の成熟化と競争の激化により、顧客の購買プロセスは複雑さを増しています。こうした環境では、広くリーチすることよりも、優良顧客に対して的確にアプローチすることが重要です。しかし、実際には営業部門が質の低いリード対応に追われ、本来注力すべき見込みの高い企業へのアプローチに時間を割けず、商談機会の損失につながっているケースも少なくありません。
その課題を乗り越える糸口となるのが、マーケティングと営業が連携し、戦略的にターゲット企業へ働きかける「ABM戦略」です。画一的な施策では成果に限界がある今、部門横断で最重要アカウントに向き合う体制づくりが、BtoBマーケティングにおける成否を左右します。
営業DXが加速する中で、限られたリソースをいかに効果的に使い、企業としての競争力を高めていくか。ABMは、もはや選択肢ではなく、持続的な成長を目指す企業にとって必要不可欠な戦略と言えるでしょう。
経営戦略としてのABM:営業・マーケティングを根本から変える
ABM戦略とは、自社にとって最も価値の高い特定企業(アカウント)をターゲットとして定義し、その企業に最適化されたアプローチを行うマーケティング手法です。これは単なるマーケティング戦略の一つではなく、マーケティング、インサイドセールス、営業部門が一体となり、LTV(顧客生涯価値)の高い優良顧客との長期的関係を築くための経営戦略と捉えるとよいでしょう。
ABM戦略を導入することで、企業は多くのメリットを獲得できるようになります。ターゲットを絞り込むことで、マーケティング予算や営業リソースを最も確度の高い見込み客に集中できるため、ROI(投資対効果)の向上が期待できます。また、ターゲット企業の課題やニーズを深く理解した上でパーソナライズされたアプローチを行うため、顧客エンゲージメントが高まり、結果として質の高い商談獲得へとつながります。

ABM戦略成功の鍵:ターゲット選定から実行までの5ステップ
効果的なABM戦略を実践するためには、計画的かつ段階的なアプローチが重要です。BtoBビジネスにおけるABM戦略の立て方を、具体的な5つのステップに分けて解説します。
1. 理想的な顧客プロフィール(ICP)の定義とターゲットアカウントの選定
まず、自社にとって最も価値のある顧客はどのような企業かを定義する「理想的な顧客プロフィール(ICP)」を明確にします。過去の優良顧客データを分析し、業種、企業規模、地域、解決した課題などの共通項を抽出しましょう。このICPに基づき、ターゲットとすべき企業群(ターゲットアカウントリスト)を作成します。この段階でSFAやCRMに蓄積されたデータを活用することが、精度を高める上で極めて重要です。
2. アカウント内のキーパーソンの特定
ターゲット企業を特定したら、次にその企業内で意思決定に関わる主要人物(キーパーソン)を特定します。役職者だけでなく、情報収集を行う担当者や、現場の課題を最もよく理解している人物など、複数の関係者を明確に把握することが重要です。ここでも営業支援ツールやオンラインの情報を活用し、組織構造や各個人の役割を把握します。
3. パーソナライズされたコンテンツとアプローチの設計
ターゲットアカウントとキーパーソンの課題や関心事を深く理解し、それぞれに響くメッセージとコンテンツを設計します。例えば、特定の業界が抱える課題に特化したホワイトペーパーや、自社の商品やサービスがどのように課題解決に貢献できるかを示す詳細な事例資料などが有効です。画一的な情報提供ではなく、「その企業のためだけ」の価値提案を意識することが、関係構築の第一歩となります。
4. マーケティング・インサイドセールス・営業の連携強化
設計したアプローチプランに基づき、各部門が連携して実行に移します。マーケティング部門がパーソナライズされたコンテンツで初期接触を図り、顧客の反応やWeb上の行動(インテントデータ)をインサイドセールス部門に共有します。インサイドセールスは、近年注目されるAI SDRのようなツールも活用しながら、それらの情報を基に電話やメールで関係を深め、確度の高いホットリードとして営業部門(BDR)へ引き継ぎ、具体的な商談へとつなげます。このスムーズな連携こそが営業DXの理想の形と言えるでしょう。
5. 効果測定と改善(ABMツールとSFA・CRMの活用)
ABM戦略は一度実行して終わりではなく、各アプローチの結果を常に測定・分析し、改善を繰り返すことが重要です。ターゲットアカウントからのエンゲージメント率、ウェブサイトへのアクセス、商談化率、受注率などのKPIを設定し、SFAやCRM、専用のABMツールを活用して効果を可視化します。データに基づいたPDCAサイクルを回し続けることで、戦略の精度が大きく向上します。
ABM戦略で実現する、持続可能な新規顧客開拓
ABM戦略は、マーケティングと営業が連携してデータを活用し、優良顧客との関係を戦略的に構築することで、効率的にリードを獲得できる現代のビジネスにとって不可欠なアプローチです。ターゲットを絞り込み、リソースを集中させ、パーソナライズされた価値を提供することで、質の高い商談獲得と持続的な事業成長が期待できます。 一方で、ツールを導入するだけでは十分な営業成果につながらないこともあります。AI SDRのような先進技術も、ABM戦略という全体設計があってこそ真価を発揮します。進むべき方向を明確にし、全社で連携して営業活動を進化させることが、これからの時代を勝ち抜くための鍵となるでしょう。